東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)681号 決定
申請人 大和自動車深川労働組合
右代表者 組合長 外五名
被申請人 大和自動車交通株式会社
一、保証 無保証
二、主 文
(一)、被申請人が昭和二十五年二月十一日附をもつて申請人松本勘次、同和田重則、同石村一男、同大槻勇雄、同金山五郎兵衞に対してなした解雇の意思表示の効力を停止する。
(二)、被申請人は右申請人等に対し、それぞれ別紙賃金目録の各人名下の手取賃金欄記載の賃金二箇月分(昭和二十五年三月及び四月分)を支払わなければならない。
(三)、被申請人は右申請人等に対し出勤停止その他就業を妨げる行為をしてはならない。
(四)、申請人等のその他の申請を却下する。
三、理 由
本件当事者の疎明方法により、一応認められる事実関係に基く本裁判理由の要旨は次の通りである。
(一) 申請人松本勘次、同和田重則、同石村一男、同大槻勇雄、同金山五郎兵衞等は被申請人会社(以下会社と略称)深川営業所の従業員であり同営業所従業員をもつて組織する申請人組合の組合員であり且右組合役員の幹部である。
(二) (一)会社は、昭和二十五年二月十一日右申請人松本勘次外四名に対し会社就業規則第八十五条同第八十六条による懲戒解雇の意思表示をなした。(二)会社の掲げる主たる懲戒理由は「申請人等を含む前記営業所従業員は、昭和二十四年六月一日より同二十五年二月六日迄右営業所で、専属車(一定期間の契約で会社又は官庁より燃料を受配されて雇い上げられた乘用車)が得意先より帰庫後、本来使用できない車輪なるに拘わらず附近の顧客からの自動車注文に応接してハイヤー営業をなし、その収入料金の内七割を各運転者の収入となし一割五分を組合諸経費に充当、残り一割五分のみを会社に納金して居たが、申請人等五名は右不正ハイヤー営業の主謀者である。
右の事実は、会社の営業方針に違背する不正営業であり、一般業界に於ける会社の体面を汚し、社内の統制秩序を著るしく紊したものであるので、同社就業規則第八十五条第一、三、六、各号の懲戒事由に該当する。」というのである。
(三)、しかしながら右ハイヤー営業発生の実情及びその後の経緯は次の通りである。即ち
(一) 前記専属車が得意先からの往還の途中顧客を乘車せしめて運転手がその料金を取得する事はタクシー業界一般の弊風で、同会社もかかる所謂「もぐり」営業の取締対策に困惑していたが、昭和二十四年六月始頃同社所長会議(当時の十一各営業所長並びに本社営業課長出席)に於て、その対策を協議した結果、右「もぐり」営業を一定の枠を設けて明確化することによつてその匡正をはかり一方会社の利益をもはかる考慮の下に専属車の得意先への往還の途中、最寄りの同社各ハイヤー出張所を利用することを原則とし、その料金の半額を各運転者の所得とし半額を会社に納入する方式によつて之を認めることに決定した。
(二) 本件深川営業所に於ては右所長会議の決定に先立ち申請人松本から当時の同営業所長田中繁雄に対しハイヤー営業実施の提案があつたが、同所長はその一存によつて決し難いとしてそれを拒絶していたところ、右所長会議の決定を見たため之を実施せんとした、ところが同営業所は都心にあつて出張所を利用する機会に殆んど惠まれない状況にあつたので、右所長の裁量で同営業所に限り得意先からの帰庫後のハイヤー営業を許可したが、同年七月頃になり従業員間に右の料金歩合率改正の要望が起つたので申請人松本は右田中所長に対し、運転者に七割の会社納金三割の歩率改正を度々交渉したところ、同所長は責任上之に対し明示の許可を与え得なかつたが、業務成績向上のため之を默認しその後申請人松本を通じて一割五分に相当する会社納金を受領するに至つた。
(四)、以上の事実に徴すれば、深川営業所に於て申請人等従業員間に専属車帰庫後にハイヤー営業が行われていたこと、及びその料金中七割を各運転者が領得していたことはいずれも会社の利益代表者たる当時の同営業所長の裁量による默示の許可にもとづくものであるから、その後会社より之を不許可とする旨の業務命令が出されたのに拘わらず申請人等が之に違背して前記営業を継続していた場合は格別その疎明のない本件に於ては、会社が当時の同所長に対しその業務管理の適否の責を問うのは別としても会社の営業方針に違背する不正営業の科をもつて申請人等の責を問うのは明かに失当であるから右の事実は会社の主張する就業規則所定の懲戒理由に該当するものとは到底言難いところである。
故に本件懲戒解雇は就業規則違反の解雇であつて、その他の争点の判断をまつまでもなく無効なものと言わねばならない。(尚会社の本件懲戒理由中には、申請人松本に対し就業規則第八十五条第七号、同和田重則に対し同四、八号、同石村に対し同四号、同金山に対し同十一号各該当の事由をあげているが、之等事由については孰れも首肯するに足る疎明が存しない)。
(五)、以上の理由により申請人等の本件申請中解雇の意思表示の効力の停止を求め、既に履行期の到来した昭和二十五年三月及び四月分の賃金(いずれも本件申請当時に於ける申請人等の過去三ケ月間の平均手取賃金額)請求並びに出勤停止その他就業の妨害の禁止を求める部分は仮処分の必要ありと認め、将来の賃金請求を求める点は、本裁判に規律せられる被申請人の任意の履行にまつことが相当と考えられるので仮処分の必要なきものとして主文の通り決定する。
(裁判官 柳川真佐夫 中島一郎 斎藤平伍)
別紙賃金目録<省略>